はじめに
「スマホを探す」「落とし物を見つける」—便利な技術として登場したAirTagやGPSトラッカー。しかし残念ながら、この便利な技術が悪用され、ストーカー行為や監視に使われるケースが増えています。
2021年にAppleのAirTagが発売されて以来、世界中で追跡被害の報告が相次ぎ、日本でも同様の被害が確認されています。探偵事務所にも「追跡されているかもしれない」という相談が増加傾向にあります。
前回は盗聴・盗撮被害について解説しましたが、今回はより身近で、そして誰にでも起こりうる「追跡被害」について、なぜ増えているのか、どう確認すればよいのかを解説します。
1. AirTag・GPS追跡被害の実態
世界的な被害の増加
海外での報告例:
- アメリカでは2021年以降、AirTagを使ったストーカー被害が多数報告
- 車に無断で取り付けられ、行動を監視される
- バッグや持ち物に忍ばせられる
- 元恋人や配偶者による追跡
日本国内でも:
- 2022年以降、AirTagやGPS機器を使った追跡・ストーカー事件が報道
- ストーカー規制法違反での検挙事例
- 警察への相談件数も増加傾向
重要なポイント: これは「有名人だけの問題」ではありません。一般の方でも、人間関係のトラブルがあれば、誰でも被害に遭う可能性があります。
なぜ追跡被害が増えているのか:3つの理由
理由①:技術の普及と低価格化
AirTagの特徴:
- 価格:約4,000円〜5,000円(非常に安価)
- サイズ:500円玉程度(簡単に隠せる)
- 精度:iPhoneのネットワークを使い、高精度で位置特定
- バッテリー:約1年持続
他のGPS機器も:
- 小型化が進み、ライターサイズ以下のものも
- 月額数百円〜1,000円程度のサブスク型
- ネット通販で誰でも簡単に購入可能
結果: 以前は高価で専門的だった追跡技術が、誰でも手軽に使えるようになってしまいました。
理由②:設置の容易さ
簡単に隠せる場所:
- 車の下部(マグネット式でくっつける)
- バッグやリュックの内側、ポケット
- 上着やコートのポケット
- 自転車のサドル下
- 子どものランドセルや持ち物
数秒あれば設置できるため、すれ違いざま、別れ際、駐車場など、一瞬の隙で取り付けられてしまいます。
理由③:悪用の意識の低さ
加害者の心理:
- 「落とし物を見つけるための機能だから」
- 「心配だから居場所を知りたいだけ」
- 「浮気しているか確かめたい」
- 「自分の物(車など)につけているだけ」
このように、犯罪という認識が薄いことが問題です。しかし、相手の同意なく追跡することは、ストーカー規制法やプライバシー侵害に該当する可能性があります。
2. こんな人は特に注意:被害に遭いやすい状況
すべての人にリスクがあるわけではありません。以下のような状況の方は、特に注意が必要です。
注意すべき状況①:元恋人・元配偶者とのトラブル
典型的なケース:
- 別れた後も連絡が続いている
- 復縁を迫られている、執着されている
- DVや束縛の傾向があった
- 離婚調停中、または離婚直後
なぜ危険か: 相手があなたの行動パターンを知っている上、「まだ自分のものだ」という意識から追跡行為に及ぶことがあります。
注意すべき状況②:職場や近隣でのトラブル
典型的なケース:
- 人間関係のトラブルがある
- 嫌がらせを受けている
- 好意を寄せられている(拒否している)
なぜ危険か: あなたの車や持ち物にアクセスできる環境にある人物が、追跡機器を設置する可能性があります。
注意すべき状況③:共有の車や物を使っている
典型的なケース:
- 夫婦共有の車
- 家族で共有している物
- 元恋人からもらったプレゼント
なぜ危険か: 「自分のものだから」という理由で、追跡機器を取り付けても問題ないと考える人がいます。しかし、共有物であっても、相手の同意なく追跡することは違法の可能性があります。
3. AirTag・GPS追跡の兆候:7つのサイン
以下のような兆候がある場合、追跡されている可能性があります。ただし、これらに当てはまるからといって必ずしも追跡被害とは限りません。冷静に確認しましょう。
サイン①:iPhoneに「AirTagが検出されました」という通知
これは何? Appleが追跡被害を防ぐために実装した機能です。あなたのiPhoneが、持ち主不明のAirTagが一定時間一緒に移動していることを検知すると、通知が来ます。
どう対処する?
- 通知が来たら、指示に従ってAirTagの位置を確認
- 自分の持ち物の中を探す
- 車の下や周囲も確認
- 見つけたら、写真を撮って証拠保存
注意: 近くの他人のAirTagに反応している場合もあります(通勤電車、カフェなど)。何度も同じ通知が来る場合は要注意です。
サイン②:AirTagから音が鳴る
これは何? 持ち主から離れたAirTagは、8〜24時間後に音を鳴らす仕組みになっています。
どう対処する?
- 音の出どころを探す
- 自分の持ち物、車の中、車の下をチェック
- 見つけたら証拠保存
サイン③:行動パターンを知られている
具体例:
- 行ったことのない場所に行ったのに「どこにいた?」と聞かれる
- リアルタイムで行動を把握されている
- 「今日は○○にいたでしょ」と言われる
他の可能性:
- SNSの投稿から推測
- 共通の知人からの情報
- 偶然
判断基準: SNSに投稿していない情報、誰にも話していない場所を知られている場合は、追跡の可能性があります。
サイン④:車に不審なものがついている
確認すべき場所:
- 車の下部(ホイールハウス、バンパー裏など)
- 車内のシート下、グローブボックス
- ダッシュボードの隙間
GPS機器の特徴:
- 小型の箱状、マグネット式
- アンテナがついている場合も
- 配線が見える場合も
サイン⑤:バッグや持ち物に見覚えのないものがある
確認すべき場所:
- バッグの内ポケット、隠しポケット
- コートやジャケットのポケット
- 車のキーケース
- 子どもの持ち物
AirTagの特徴:
- 白い円形、500円玉サイズ
- 片面にAppleロゴ
- 軽量(約11グラム)
サイン⑥:Androidスマホでの確認(Tracker Detectアプリ)
iPhoneユーザーには自動通知が来ますが、Androidユーザーは自分で確認する必要があります。
方法:
- Google PlayストアからApple公式アプリ「Tracker Detect」をインストール
- アプリを起動してスキャン
- 近くのAirTagを検出
注意: このアプリは自動では動かないため、定期的に手動でスキャンする必要があります。
サイン⑦:車のバッテリーが早く減る
GPS機器の中には: 車のバッテリーから電源を取るタイプもあります。そのため、バッテリーの減りが異常に早い場合、車に機器が取り付けられている可能性があります。
他の可能性:
- バッテリーの劣化
- 電装品の故障
判断基準: 急にバッテリーの減りが早くなった場合は、整備工場で確認してもらいましょう。
4. 自分でできる確認方法
追跡されているかもしれないと感じたら、まず自分でできる確認をしてみましょう。
確認方法①:iPhoneの「探す」アプリで確認
手順:
- 「探す」アプリを開く
- 「持ち物を探す」タブを選択
- 「持ち物を特定」をタップ
- 近くのAirTagがリストアップされる
自分のものでないAirTagが表示された場合、追跡されている可能性があります。
確認方法②:物理的な目視確認
確認すべき場所:
- バッグの全ポケット(内側、外側、隠しポケット)
- 車の下部(屈んで確認、またはジャッキアップ)
- 車内のシート下、隙間
- よく使う持ち物
確認のポイント:
- 懐中電灯を使って隅々まで
- 触って確認(見えない場所も)
- 定期的にチェック
確認方法③:GPS探知機を使う(専門機器)
市販のGPS探知機を使えば、GPS信号を発している機器を見つけられる場合があります。
注意:
- 精度は機器によって異なる
- 誤検知もある
- 専門知識がないと難しい
推奨: 自分で判断が難しい場合は、専門家に依頼しましょう。
5. 追跡機器を見つけたらどうする?
ステップ①:証拠を保存する
すぐにやるべきこと:
- 写真を撮る(機器、設置場所、周囲の状況)
- 動画も撮る
- 日時、場所を記録
- 触らず、その場に残す(証拠保全のため)
ステップ②:警察に相談する
持っていくもの:
- 撮影した写真・動画
- 追跡の記録(いつ、どこで、誰に何を言われたか)
- ストーカー行為の証拠(メッセージ、SNSなど)
相談先:
- 最寄りの警察署
- ストーカー相談窓口(#9110)
ステップ③:専門家に調査を依頼する
探偵ができること:
- 車両や持ち物の徹底調査
- GPS探知機を使った確認
- 証拠の記録と報告書作成
- 今後の対策アドバイス
次々週の記事で、探偵による調査の流れを詳しく解説します。
やってはいけないこと
❌ 自分で取り外して捨てる → 証拠がなくなってしまいます
❌ 相手を問い詰める → 証拠隠滅される、または逆上される可能性
❌ SNSで公表する → 相手を刺激し、エスカレートする可能性
6. 追跡被害を防ぐための予防策
予防策①:定期的に確認する習慣
おすすめの頻度:
- 車:月1回は車の下をチェック
- バッグ:週1回は全ポケット確認
- iPhoneユーザー:通知設定をオン
予防策②:人に物を預けない、車を貸さない
特に注意すべき相手:
- 元恋人、元配偶者
- トラブルのある人物
- 過度に執着してくる人
予防策③:プレゼントは慎重に
注意すべきプレゼント:
- バッグ、財布、キーケース
- 車のアクセサリー
- ぬいぐるみ、置物
関係が悪化した相手からのプレゼントは、追跡機器が仕込まれている可能性も考慮しましょう。
予防策④:駐車場所に注意
安全な駐車場所:
- 照明がある
- 防犯カメラがある
- 人通りが多い
誰でも近づける暗い場所に長時間駐車しない。
7. まとめ:便利な技術の「影」を知る
AirTagやGPS機器は、本来は便利な技術です。しかし、悪用されるとプライバシー侵害やストーカー行為につながります。
この記事のポイント:
- 追跡被害は増えている
- 技術の普及、低価格化、設置の容易さ
- 特に注意すべき人
- 元恋人・元配偶者とのトラブル
- 共有物を使っている
- 自分でできる確認
- iPhoneの通知機能
- 物理的な目視確認
- 定期的なチェック
- 見つけたら
- 証拠保存
- 警察に相談
- 専門家に依頼
- 予防が大切
- 定期的な確認習慣
- 人に物を預けない
- 駐車場所に注意
便利な技術の「影」を知り、適切な知識で自分を守りましょう。
次週は「自分で調べてはいけない盗聴チェック」について解説します。素人判断が危険な理由と、やってはいけない行動をお伝えします。
