- 「感謝されない」と感じるとき、人は何を求めているのか
感謝の欲求は人間の基本的ニーズ
心理学的に、人間には「承認欲求」があります。これは、自分の存在や努力を認めてほし
い、価値を感じたいという欲求です。
家庭内で言えば:
「仕事を頑張っていることを認めてほしい」
「家事・育児の大変さを分かってほしい」
「自分の貢献を見ていてほしい」
このような気持ちは、決してわがままではありません。むしろ、パートナーシップの基盤
となる重要な要素です。
なぜ「見えない努力」ほど報われないと感じるのか
探偵として様々な夫婦の問題を見てきて気づくのは、「見えにくい努力」ほど感謝されに
くいという現実です。
見えにくい努力の例:
家事・育児:
食事の献立を考える
日用品の在庫管理
子どもの予定調整
家族の健康管理
仕事:
人間関係の調整
ストレスの我慢
将来のキャリア設計
家計への貢献
これらは「結果」だけが見えて、「過程」は見えません。だから相手は「大変だった」と
思わず、「当たり前」と受け取ってしまうのです。 - 「感謝されたい」が関係を壊す3つのパターン
感謝の欠如は、時に夫婦関係に深刻なダメージを与えます。探偵業務の中で見てきた、典
型的なパターンを紹介します。
パターン①:感謝の押し売り—「こんなにやってるのに」
典型的な言動:
「私がどれだけやってると思ってるの?」
「俺がどれだけ稼いでると思ってるんだ」
自分の貢献を過剰にアピールする
相手の貢献を認めない、軽視する
何が起こるか: このパターンでは、感謝を「強要」してしまいます。感謝は本来、自発的
なもの。強要された感謝は、相手にとって「義務」となり、心からのものではなくなりま
す。
結果として、お互いに不満が溜まり、会話が減り、心の距離が開いていきます。
パターン②:無言のスコアキーピング—「私のほうが大変」
典型的な言動:
心の中で「貢献度」を比較し続ける
「私は○○をやったのに、あなたは△△しかしてない」
相手の失敗や怠慢を記憶し、機会があれば持ち出す
「してあげた」という表現を使う
何が起こるか: 夫婦関係を「取引」のように考えてしまい、常に「損得勘定」が働きます
。これでは、家庭が安らぎの場ではなく、競争の場になってしまいます。
相手も同じようにスコアをつけ始め、お互いが「自分のほうが大変」と思い込む悪循環に
陥ります。
パターン③:感謝の飢餓—外に癒しを求める
典型的な言動:
家庭内で承認されないため、外で承認を求める
職場や趣味の仲間など、「自分を認めてくれる人」に時間を割く
SNSで承認を求める(「いいね」依存)
最悪の場合、浮気・不倫へと発展
何が起こるか: 家庭で「感謝されない」「認められない」と感じると、人はその欠乏を埋
めようと外に向かいます。
「職場の後輩が自分を慕ってくれる」 「趣味の仲間が自分を尊重してくれる」 「SNSで
たくさんの反応がもらえる」
そして最も危険なのが、異性からの承認です。「この人は自分を理解してくれる」「自分
の価値を認めてくれる」という感覚が、境界線を越えさせてしまうことがあります。
探偵として調査する浮気・不倫案件の多くで、背景に「家庭での承認不足」があることを
実感しています。
- なぜ「感謝」が伝わらないのか?
感謝の「言語」が違う
心理学者ゲイリー・チャップマンの「5つの愛の言語」という概念があります。人はそれ
ぞれ、異なる方法で愛情や感謝を表現し、受け取ります。
5つの愛の言語: - 言葉による肯定:「ありがとう」「すごいね」などの言葉
- 質の高い時間:一緒に過ごす時間、会話
- 贈り物:プレゼント、お土産
- サービス行為:家事を手伝う、用事を代わりにする
- 身体的タッチ:ハグ、スキンシップ
問題は、自分が感謝を表現する方法と、相手が受け取りたい方法が異なることです。
例:
夫は「残業して稼いでいる」(サービス行為)で感謝を示しているつもり
妻は「一緒に話す時間」(質の高い時間)で感謝を感じたい
→ お互い、相手が感謝していないと感じる
「察してほしい」という期待
日本の文化では「言わなくても分かってほしい」という暗黙の期待があります。しかし、
これは夫婦関係においてリスクの高い考え方です。
よくある誤解:
「こんなに頑張ってるんだから、気づくはず」
「言わなくても、分かってくれるはず」
「感謝を求めるなんて、恥ずかしい」
しかし現実には、人は他人の内面を正確に理解することはできません。特に、日々の忙し
さの中では、相手の努力や気持ちを見落としがちです。
- すれ違いを防ぐ5つの方法
では、どうすれば「感謝」をめぐるすれ違いを防げるのでしょうか。具体的な方法を5つ
ご紹介します。
方法①:自分から感謝を言葉にする
まず、自分から相手に感謝を伝えることです。
「感謝されないから、私も言わない」では、永遠に感謝のない関係が続きます。誰かが先
に変わらなければなりません。
効果的な感謝の伝え方:
具体的に:「ありがとう」だけでなく、「○○してくれて助かった」
タイムリーに:その日のうちに伝える
小さなことでも:大きな貢献だけでなく、日常の小さなことにも
方法②:相手の「見えない努力」を探す
相手がどんな努力をしているか、意識的に探してみましょう。
探すべきポイント:
仕事から帰ってきたときの表情や疲れ具合
いつの間にか済んでいる家事(ゴミ出し、片付けなど)
子どもが喜んでいること(遊び相手、宿題のサポートなど)
家計への貢献(節約、収入)
「当たり前」と思っていることの多くは、実は誰かの努力の結果です。
方法③:相手の「愛の言語」を知る
相手がどのような方法で感謝を感じるか、観察したり、直接聞いたりしてみましょう。
質問例:
「どんなときに、大切にされてると感じる?」
「嬉しかったこと、覚えてる?」
「疲れてるとき、何をしてもらうと助かる?」
相手が喜ぶ方法で感謝を示すことで、より効果的に気持ちが伝わります。
方法④:「してほしいこと」を具体的に伝える
「察してほしい」ではなく、明確に伝えることが大切です。
効果的な伝え方:
「もっと感謝してほしい」(曖昧) → 「一日の終わりに、今日あった良いことを
話し合う時間がほしい」(具体的)
「家事を手伝ってほしい」(曖昧) → 「週末の掃除を一緒にやってくれると助か
る」(具体的)
具体的であればあるほど、相手は行動しやすくなります。
方法⑤:定期的な「感謝の時間」を作る
忙しい日常では、感謝を伝える余裕がなくなりがちです。だからこそ、意識的に感謝の時
間を作ることが有効です。
具体例:
毎日寝る前に、一つずつ「今日ありがとう」と伝え合う
週末に、お互いの頑張りを認め合う時間を持つ
月に一度、ゆっくり外食しながら話す
習慣化することで、感謝が日常に根付いていきます。
- それでもすれ違いが続くとき
上記の方法を試しても、すれ違いが解消されない場合もあります。その場合は、以下のよ
うな対応を検討しましょう。
カップルカウンセリング・夫婦カウンセリング
第三者の専門家を交えることで、お互いの本音を安全に話せる環境が作れます。
カウンセリングが有効なケース:
自分たちだけでは話し合いが感情的になってしまう
何が問題なのか、お互いに整理できていない
関係修復の意思は双方にある
一時的な距離を置く
場合によっては、少し距離を置くことで冷静になれることもあります。
例:
別々の部屋で過ごす時間を増やす
週末だけ別行動をとる
短期間の別居(実家に帰るなど)
ただし、これは「逃げる」ためではなく、「冷静に考えるため」の手段です。
深刻な問題が隠れていないか確認
もし、すれ違いの背景に浮気や金銭問題など、より深刻な問題が隠れている可能性を感じ
る場合は、事実確認が必要です。
こんなサインがある場合は注意:
急激に態度が変わった
お金の使い方が不透明になった
外出が増え、行き先を言わなくなった
スマホを異常に気にする
このような場合、探偵による調査で事実を確認することが、問題解決の第一歩になること
もあります。 - まとめ:感謝は「求める」ものではなく「育てる」もの
「感謝されたい」という気持ちは自然で健全なものです。しかし、それを「求める」だけ
では、関係は良くなりません。
大切なのは: - 自分から感謝を示す
o 相手に期待する前に、まず自分から - 相手の努力を見ようとする
o 「当たり前」の中に、たくさんの貢献が隠れている - コミュニケーションを明確にする
o 「察してほしい」ではなく、言葉にして伝える - お互いの感謝の形を理解する
o 人によって、感謝の表現方法と受け取り方は違う - 関係を「育てる」意識を持つ
o 感謝のある関係は、一日で作れるものではない
勤労感謝の日を機に、パートナーへの感謝を改めて伝えてみませんか。そして、相手から
の感謝も受け取れる心を持ちましょう。
小さな感謝の積み重ねが、大きなすれ違いを防ぎ、豊かな関係を育てていきます。
※この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する心理学的助言や法
的助言を意図するものではありません。
